3人で重箱をつついていると、みるみる中身が減っていく。中でも、穴織の食べっぷりは見ていて気持ちがいいくらいだった。「生徒会長、これマジで、めっちゃうまいです!」「喜んでもらえて僕も嬉しいよ」昨日、知り合ったばかりなのに、2人の会話は弾んでいる。「こんなうまい飯が毎日食べれるなんて、生徒会長がうらやましい!」「穴織くんは、転校して来たんだよね? もしかして、一人暮らしをしているの?」チラッと自分の胸ポケットを見た穴織は、「いや、まぁ、そんな感じです」と答えている。(話す武器のおじいさんが一緒だから、一人暮らしとは言い切れないんだね)穴織の事情を知っている穂香は心の中でそう思いながら、静かにため息をついた。(レン、大丈夫かな? ちゃんとご飯、食べてるかな……)穂香としては、レンが頑張ってくれているのに、自分だけのんびりしている状況が心苦しい。(でも、先生に放課後まで待ってくれって言われたから、待つしかないよね)しばらくすると、食事を終えた穴織が「ごちそうさまです!」と手を合わせた。生徒会長は、穂香の顔を覗き込む。「白川さんも、お腹いっぱいになった?」「あっ、はい! すごくおいしかったです。ありがとうございました」「でも、表情が暗いね」「すみません。レンのことを、考えてしまって」穂香が素直に伝えると、生徒会長の眉が下がる。「そうだよね。高橋くんのこと、心配だよね」それを聞いた穴織は、大きなため息をついた。「不謹慎やけど、正直、白川さんにこんだけ思ってもらえるレンレンがうらやましいわ」生徒会長はクスッと笑う。「分かる。僕も同じことを考えていたよ」「ですよね⁉ いくら白川さんに変わった能力があるとはいえ、自分を助けるために、こんだけ一生懸命になってくれる子がいたら嬉しいやろーなー。俺なんて、一生そういう子に会えそうもないわ」「僕もだよ」あきらめたような顔をする2人を見て、穂香は不思議な気分になった。(恋愛ゲームの恋愛相手に選ばれるくらい、2人ともハイスペックなのに?)顔よし、家柄よし、性格よしのすべてがそろっている。「あの、出会えると思いますよ」生徒会長と穴織が一斉に穂香を見た。「生徒会長も、穴織くんも、今まですごく大変な状況で、自分達が恋愛する余裕がなかっただけで……」穂香は、まっすぐ2人を見つめる。「でも
賢者は、「こういうときはね」と笑顔を浮かべる。「次元を部分的に塞いで、過去からの影響を未来人たちに流れないようにしたらいいんだよ。そうすると、未来人はそのまま残って周囲の環境だけが変わるから。でも、そこで未来は分離するね」説明がまったく理解できず、穂香は固まった。代わりに、生徒会長が質問してくれる。「分離というと?」「【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【君たちがこれから作っていく、まったく別の未来】の2つに別れちゃうってこと。この2つはとても似ているようで別物だから、まぁ並行世界ってやつだね。でもさ、次元の穴を塞ぐなんて、そんなことできるの、私くらいだと思うけどなぁ? 私だけじゃ、未来人全員は救えないよ?」先生が「こっちの世界には、それができる一族がいるんだよ。な?」と、穴織を見た。「そう、ですね……。一族全員でやれば、できるかもしれません。絶対にできるとは言えませんが、白川さんへの恩返しのために、全力でやります!」「方法や具体的な指示は賢者が出す。穴織の一族には、おまえから話しをつけてくれ」「分かりました」穴織の胸ポケットから『もちろん、わしも協力するぞ』としわがれた声が聞こえてくる。とたんに賢者の瞳が輝いたので、彼にも話す武器の声が聞こえているようだ。先生は、賢者に向き直ると「何をどこまでやれば、未来を分離できる?」と尋ねた。「それだけど、こっちの世界は、科学にだけ特化して滅びそうなんだよね? でも、私がいる世界は、魔法にだけ特化してて、こっちはこっちで、もうそろそろ限界なんだよ」「そうなのか?」深刻な先生に、賢者は「だからさ、この際、滅びそうな2つの世界を混ぜちゃわない?」と満面の笑みを浮かべる。「例えば、こっちにドラゴンでも召喚して、向こうには科学で作った巨大なものを飛ばすとか、どう!?」「世界中が大混乱に陥るだろうな……。まぁ、そこまでしないと、ハッピーエンドにはたどり着けないということか」ため息を着いた先生は、生徒会長に視線を送る。「おまえのほうで、なんとかできるか?」「はい。都合が良いことに、ちょうど今、父が僕への罪悪感に苦しんでいるんです。『なんでも願いを言いなさい』と言うほどに。そこを利用して、混乱を最小限に抑えるために裏から手を回します」「頼もしいな」先生に肩を叩かれた生徒会長は、ニッコリと笑う。
「やり直しより大変なことって……」戸惑う穂香に、レンはスマホの画面を見せた。画面には映像が流れている。――ご覧ください! 突如、日本の上空に謎の巨大生物が現れました!(キシャァアア!!!)――あれは、まさしく、ドラゴンです! ドラゴンは、空想上の動物ではなかったのです!ああっ!? 人が、人がドラゴンの背に乗っています! こちらに、手を、手を振っています!穂香は、寝起きの目をこすった。「何これ? 映画の宣伝?」「いいえ。今朝、本当にあった話です。心当たりないのですか?」そう尋ねられた穂香は、昨日、賢者が『こっちにドラゴンでも召喚して』と言っていたことを思い出す。「あ、ああああ! 心当たり、あるある! 昨日、賢者さんがそんなこと言ってた!」「賢者?」「先生の勇者時代の仲間で……」「よく分かりませんが、先生が関わっていることは分かりました。とにかく学校に行きましょう」「う、うん」穂香がベッドから下りると、風景が変わる。【同日 朝/職員室前】(私の部屋から、学校に飛ばされてる)職員室前でバッタリと先生にあった。「おお、白川と高橋。今日は早いな」先生は、いつものようにダルそうだ。そんな先生に、レンが詰め寄った。「少しお話、いいでしょうか?」「ちょうど俺も高橋に会いたかった。とりあえず、生徒指導室に行くか」レンがうなずくと風景が変わる。【同日 朝/生徒指導室】先生が生徒指導室の扉を閉めると、レンがポケットからスマホを取り出した。「今朝のニュースを見ました。ご説明ください」「まぁ、座れ」穂香とレンが座ったのを見ると、先生は嬉しそうに笑った。「高橋がここにいるってことは、成功したってことだな」事情を知らないレンは、眉をひそめている。「そんな顔するなって。高橋、今、未来と連絡とれるか?」「いいえ。今朝、急に取れなくなりました」「上出来だな。分離もうまくいったようだ」「分離?」先生はこれからの未来が【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【俺達がこれから作っていく、まったく別の未来】に別れたことを説明する。レンが「そんな……無茶苦茶な……」とつぶやいた。その顔は、真っ青だ。「こんなことをして人類滅亡より、もっとひどい未来を招いたら、いったいどう責任を取るつもりですか⁉」「これからは、科学と魔法が合わさってい
泣き止んだ穂香は、レンと並んで通学路を歩いた。「勝手に風景が変わらないし、もう飛ばされないんだね」「ゲームは終わりましたから」「あれはあれで、便利だったね」「そうでしょう?」「あっ、そういえば、今日は何日の何曜日だっけ?」ずっと目の前に文字が出ていたので、出なくなったら分からなくなってしまった。レンが「今日は、【10月16日(土)の早朝】ですよ」と教えてくれる。「え? 土曜日なのに学校があるの?」「本当に寝ぼけていますね……」レンがメガネを指で押し上げた。「今日は文化祭でしょう?」「あっ、そっか!」「穂香さんは、文化祭実行委員なので、早く行かないといけませんよ」「そうだった」学校につくと、大きなアーチがあり『文化祭』と書かれている。なぜか校門は真っ赤なバラで飾られたままだった。「あれ? 現実世界に戻ったはずなのに、まだバラが……」「そのバラ、私にも見えてますよ」「レンにも? じゃあ、ただの飾りかな?」そんな会話をしていると、怒声が聞こえてきた。「おまえの仕業だったのか⁉」そう叫んだのは、元の髪色に戻った松凪先生だ。先生の側には、紫色の長い髪を持つ賢者がいる。レンが「どうしたんですか?」と尋ねると、先生は「おう、高橋か。白川もおはよう」と言いながら賢者の頭を押さえつけた。「コイツ、自分の世界の破滅を防ぐために、無理やり学校ごと俺を異世界に召喚しようとしていたんだ!」「そ、そんなことしてないよぉ」先生は、校門のバラを指さす。「じゃあ、このバラはなんだ⁉ これ、王城で育てられていたバラだそうだな? おまえ、この学校と王城を少しずつ入れ替えるつもりだったんだろうが!」「だ、だって、何回呼んでも勇者が返事してくれないから! 城のやつらは、私に面倒ごとばかり言ってくるし! それに、なぜかこの学校だけ世界から切り離されてたから、じゃあ入れ替えてもいいかなって……」「いいわけあるか⁉」先生に怒られた賢者は、「もうしないって」と言いながら笑っている。(先生の勇者時代って、大変だったんだろうな)つい穂香はそんなことを思ってしまう。レンが「では、バラの件は解決したんですか?」と質問すると、先生は「ああ」とうなずいた。「まだバラは入れ替えられたままだが、コイツに責任を持って元に戻させる。おまえたちは、安心して文化祭を楽しん
「おはよう。来てくれたんだね。白川さんの笑顔が見れて嬉しいよ」生徒会長は、レンを見て「よかった」と胸をなでおろす。「高橋くんも無事にこの時代に残れたんだ」「ご尽力くださり、ありがとうございます」レンがお礼を言うと、生徒会長は「先に助けてもらったのは僕だから。これは、白川さんへの恩返しだよ」と笑う。「君がいなくなったら、白川さんが幸せになれないものね」その言葉に応えるように、レンが穂香の手をそっと握ったので、穂香もその手を握り返した。「君達を見ていると、僕も恋に前向きになろうと思えるよ。あっそうそう、これ……」生徒会長は穂香にプリントを手渡す。「それ、文化祭実行委員が書いて提出するものだから、文化祭が終わったら提出してね」「はい、分かりました」そのとき、生徒会室の扉がノックされた。「し、失礼します!」緊張した面持ちで入ってきた女子生徒に、穂香は見覚えがあった。(あっ、生徒会長のことが大好きで、おまじないをしていた黒髪先輩!)今でもその気持ちは変わっていないようで、生徒会長を見つめる先輩の瞳は潤んでいる。「ぶ、文化祭実行委員の件で来ました」「うん、来てくれてありがとう。このプリントを――」生徒会長が渡そうとしたプリントを、先輩は手がふるえたのか落としてしまった。「あっ、す、すみません!」先輩は、今にも泣きそうな顔をしている。(生徒会長のことが、大好きなんだね)一生賢明な先輩の姿が、レンを助けようと必死だった自分の姿と重なっていく。穂香は落ちているプリントを拾うと、先輩に手渡した。「あの、先輩」「な、何?」知らない後輩に話しかけられた先輩は驚いている。「私、2年の白川っていいます。いきなりですが、先輩、私と友達になってくれませんか?」「え?」先輩は戸惑いながらも「い、いいけど?」と言ってくれた。自分で言ったのに「いいんですか?」と、穂香は驚いてしまう。「うん。友達なら大歓迎」そう言って笑う先輩は、とてもいい人そうだ。(私の周囲の人は、少しだけ幸せになれるから。先輩の恋も、もしかしたら、叶うかもしれない)そんなことを考えていると、生徒会長に「白川さん、よかったね」と言われた。「え?」「だって、クラスに友達がいないって悩んでいたじゃない。でも、今、友達ができたでしょう? これからは、同じクラスとか気にせず
穂香は、朝から自室で一人、机に向かっていた。恋愛ゲームの世界から無事脱出したあと、なんとなく書き始めた日記帳に今日の日付を書き込む。【4月6日(日) 晴れ】(あれから、もう半年たったんだ……)文化祭は無事に終わった。そして、冬が来て春になり、穂香とレンは高校三年生になっていた。あのとき起こったことは、まるで夢のような不思議な体験だったが、すべては現実として今でも穂香の目の前に広がっている。部屋の扉がノックされた。すぐにレンの声が聞こえる。「穂香さん、出かける準備は終わってますか?」「うん、大丈夫。今、行くね」穂香は書き途中の日記帳を閉じた。扉の付近には、黒髪のレンが立っている。「もう皆、来ていますよ」「えっ!? 早く行かないと」穂香があわてて家から出ると、そこには見慣れた顔がそろっていた。大きなカバンを持った生徒会長が「おはよう、白川さん。高橋くん」と眩しい笑みを浮かべると、穴織が「今日は、絶好のお出かけ日和やなぁ」と明るく笑う。車のクラクションが鳴った。運転席から松凪先生が手を振っている。先生は、穂香が三年生になったタイミングで学校をやめた。今は、異世界とこの世界を繋ぐ外交官として活躍しているらしい。「おーい、出発するぞー。早く乗れ」助手席には、紫色の髪をした賢者の姿が見える。車に乗り込んだ穂香達は、清々しい天気の中、お花見に向かった。生徒会長が持っている大きなカバンには、じいやが作ってくれたお花見弁当が入っている。後部座席に座っている穴織が、レンに「じいやさんの料理おいしいねん! 本当にやばいねん!」と熱く語り、レンが迷惑そうな顔をしている。穂香は、後ろの席の生徒会長を振り返った。「大学生活は、どうですか?」「楽しいよ。白川さんもうちの大学にくる?」「うっいえ、そんな超名門大学にいけるほど、勉強ができないので……。レンならいけると思いますけど」そんな感じで車の中は、皆がそれぞれに会話をしていて騒がしい。賢者が穴織に「そういえば、穴織一族が抱えている人形化の特効薬が完成したよ」と報告すると、穴織くんが「マジですか!?」と叫んだ。「あの人形化ってさ、こっちの世界では穴織一族だけの問題だったけど、私の世界では魔法使い達が同じような症状に苦しんでいたから、こっちより研究がだいぶ進んでいたんだよね。でも、特効薬まではできな
出会ったばかりのレンに「誰と恋愛しますか?」と尋ねられたとき、穂香は穴織を選んだ。「どう考えても全員無理そうだけど、どうしても選ばないといけないのなら、穴織くんにしようかな……」「それはどうしてですか?」「だって、同じクラスで他の人達よりは、まだ接点があるから」「いいと思いますよ。では、明日から穴織くんとの恋愛を頑張りましょう!」そうして、始まった恋愛ゲームは、穂香が穴織の裏の顔を見てしまったことで事態は急変した。光り輝く棒のような武器を持った穴織が、化け物と戦っている。(わ、私は、穴織くんに借りたシャーペンを返しに来ただけなのに! いったいこの状況をどうしろと!?)とにかく一度、この場から離れようとすると、『そこにいるのは誰じゃ!?』と穴織ではない、老人のような声に鋭く呼びとめられた。穴織が手に持っている武器と話すような仕草をしている。(もしかして、あの武器が話しているの!?)見たこともないくらい怖い顔をした穴織に、穂香は「敵か?」と睨みつけられた。(こんなの恋愛する以前の問題だよ! このままじゃ、穴織くんに、こ、殺される……)恐怖で身体が震え、穂香の目には涙がにじんだ。穴織と話す武器は、話し合いの結果、とりあえず穂香の記憶を消すことにしたらしい。(私、記憶消されちゃうの!? ダ、ダメ、もう正直に『恋愛ゲームに閉じ込められているんです』って、全部話して見逃してもらおう!)そう思ったのに、唇が動かない。それどころか、身体も少しも動かせない。ゆっくりと穴織が近づいてくる。穴織の人差し指と中指が、そっと穂香の額にふれた。ふれられた箇所がじんわりと熱くなる。「白川さんは、ここで何も見なかった」 怖いくらい真剣な穴織の顔がすぐ近くにある。徐々に薄れていく意識の中で穂香は『穴織くんって、普段は明るい感じだけど、こうして近くで見るとすごく綺麗な顔してる』と場違いなことを思った。【同日 放課後/教室】(あれ? いつのまにか体育館裏から教室まで飛ばされてる)穴織が「シャーペン返してくれてありがとう」と穂香に微笑みかけた。「ひっ!」思わず悲鳴をあげると、穴織は驚いた顔をする。「白川さん、大丈夫?」「え? あ、穴織くん……あれ?」(私、さっき記憶を消されたんだよね?)それなのに、穴織が化け物と戦っていたことを、穂香はしっかりと覚え
風景が変わり、穂香の目の前に日付が現れる。【10月7日(木)朝/自宅玄関】「うわ!? 騒いでいる間に、次の日になっちゃってる!」 慌ててレンの姿を探しても見当たらない。「嘘でしょ!? 私を穴織くんと2人っきりで登校させる気なの⁉」昨晩『ようやく恋愛ゲームになってきました』と喜んでいたレンならやりかねない。穂香がおそるおそる玄関の扉を開けると、家の門付近に赤い髪の青年が見えた。(う、うわ……穴織くん、本当にいるよ)穂香がどうしたものかと悩んでいたら、こちらに気がついた穴織が人懐っこい笑みを浮かべて片手を上げた。「白川さん。おはよー!」「う、うん。おはよう……」穴織の爽やかさに圧倒されながらも、穂香はなんとか挨拶を返す。「じゃあ、行こうか!」そう言って穂香の隣を歩き始めた穴織は、本気で一緒に登校する気のようだ。【同日 朝/通学路】「……えっと。穴織くん、急に一緒に登校しようって、どうしたの?」穂香が思い切って尋ねると「え? 迷惑やった?」と逆に聞かれてしまう。「いや、迷惑ではないけど……」「じゃあ、いいやん! あ、レンレンとは、いつもどこで合流するん?」穂香は、穴織をまじまじと見つめた。「どしたん?」大きく息を吐きながら、穂香は胸をなで下ろす。「そっか……。穴織くんは、3人で登校するつもりだったんだね……」「え?」「おかしいと思ってたんだよ」いくら『敵かも?』と疑われているとしても、いきなり2人きりで登校しようなんて攻めすぎている。(私とレンと穴織くんで登校するつもりだったから、あんなに強引だったんだ)穂香が「今日は、レンいないよ」と伝えると、穴織は「え? なんで?」と驚いている。「私が、穴織くんに誘われたってレンに言ったから、レンが勘違いして気を利かせてくれたんじゃない?」「気を利かせるって?」「その、デ、デート的な? 2人きりで登校したいって勘違いしたってことだね、たぶん?」誤魔化しながら伝えると、穴織の顔がカァと赤くなった。「あ、ちがっ!」「大丈夫、大丈夫。私は勘違いしていないし、ちゃんと分かっているから」「そ、そうなん? でも、レンレンは勘違いしてんねんな? なんか、ごめんっ!」「別にいいよ」 穴織は、申し訳なさそうな顔をしている。「だって、自分ら、めっちゃ仲良いやん? 俺が邪魔してレンレ
風景が変わり、穂香の目の前に日付が現れる。【10月7日(木)朝/自宅玄関】「うわ!? 騒いでいる間に、次の日になっちゃってる!」 慌ててレンの姿を探しても見当たらない。「嘘でしょ!? 私を穴織くんと2人っきりで登校させる気なの⁉」昨晩『ようやく恋愛ゲームになってきました』と喜んでいたレンならやりかねない。穂香がおそるおそる玄関の扉を開けると、家の門付近に赤い髪の青年が見えた。(う、うわ……穴織くん、本当にいるよ)穂香がどうしたものかと悩んでいたら、こちらに気がついた穴織が人懐っこい笑みを浮かべて片手を上げた。「白川さん。おはよー!」「う、うん。おはよう……」穴織の爽やかさに圧倒されながらも、穂香はなんとか挨拶を返す。「じゃあ、行こうか!」そう言って穂香の隣を歩き始めた穴織は、本気で一緒に登校する気のようだ。【同日 朝/通学路】「……えっと。穴織くん、急に一緒に登校しようって、どうしたの?」穂香が思い切って尋ねると「え? 迷惑やった?」と逆に聞かれてしまう。「いや、迷惑ではないけど……」「じゃあ、いいやん! あ、レンレンとは、いつもどこで合流するん?」穂香は、穴織をまじまじと見つめた。「どしたん?」大きく息を吐きながら、穂香は胸をなで下ろす。「そっか……。穴織くんは、3人で登校するつもりだったんだね……」「え?」「おかしいと思ってたんだよ」いくら『敵かも?』と疑われているとしても、いきなり2人きりで登校しようなんて攻めすぎている。(私とレンと穴織くんで登校するつもりだったから、あんなに強引だったんだ)穂香が「今日は、レンいないよ」と伝えると、穴織は「え? なんで?」と驚いている。「私が、穴織くんに誘われたってレンに言ったから、レンが勘違いして気を利かせてくれたんじゃない?」「気を利かせるって?」「その、デ、デート的な? 2人きりで登校したいって勘違いしたってことだね、たぶん?」誤魔化しながら伝えると、穴織の顔がカァと赤くなった。「あ、ちがっ!」「大丈夫、大丈夫。私は勘違いしていないし、ちゃんと分かっているから」「そ、そうなん? でも、レンレンは勘違いしてんねんな? なんか、ごめんっ!」「別にいいよ」 穴織は、申し訳なさそうな顔をしている。「だって、自分ら、めっちゃ仲良いやん? 俺が邪魔してレンレ
出会ったばかりのレンに「誰と恋愛しますか?」と尋ねられたとき、穂香は穴織を選んだ。「どう考えても全員無理そうだけど、どうしても選ばないといけないのなら、穴織くんにしようかな……」「それはどうしてですか?」「だって、同じクラスで他の人達よりは、まだ接点があるから」「いいと思いますよ。では、明日から穴織くんとの恋愛を頑張りましょう!」そうして、始まった恋愛ゲームは、穂香が穴織の裏の顔を見てしまったことで事態は急変した。光り輝く棒のような武器を持った穴織が、化け物と戦っている。(わ、私は、穴織くんに借りたシャーペンを返しに来ただけなのに! いったいこの状況をどうしろと!?)とにかく一度、この場から離れようとすると、『そこにいるのは誰じゃ!?』と穴織ではない、老人のような声に鋭く呼びとめられた。穴織が手に持っている武器と話すような仕草をしている。(もしかして、あの武器が話しているの!?)見たこともないくらい怖い顔をした穴織に、穂香は「敵か?」と睨みつけられた。(こんなの恋愛する以前の問題だよ! このままじゃ、穴織くんに、こ、殺される……)恐怖で身体が震え、穂香の目には涙がにじんだ。穴織と話す武器は、話し合いの結果、とりあえず穂香の記憶を消すことにしたらしい。(私、記憶消されちゃうの!? ダ、ダメ、もう正直に『恋愛ゲームに閉じ込められているんです』って、全部話して見逃してもらおう!)そう思ったのに、唇が動かない。それどころか、身体も少しも動かせない。ゆっくりと穴織が近づいてくる。穴織の人差し指と中指が、そっと穂香の額にふれた。ふれられた箇所がじんわりと熱くなる。「白川さんは、ここで何も見なかった」 怖いくらい真剣な穴織の顔がすぐ近くにある。徐々に薄れていく意識の中で穂香は『穴織くんって、普段は明るい感じだけど、こうして近くで見るとすごく綺麗な顔してる』と場違いなことを思った。【同日 放課後/教室】(あれ? いつのまにか体育館裏から教室まで飛ばされてる)穴織が「シャーペン返してくれてありがとう」と穂香に微笑みかけた。「ひっ!」思わず悲鳴をあげると、穴織は驚いた顔をする。「白川さん、大丈夫?」「え? あ、穴織くん……あれ?」(私、さっき記憶を消されたんだよね?)それなのに、穴織が化け物と戦っていたことを、穂香はしっかりと覚え
穂香は、朝から自室で一人、机に向かっていた。恋愛ゲームの世界から無事脱出したあと、なんとなく書き始めた日記帳に今日の日付を書き込む。【4月6日(日) 晴れ】(あれから、もう半年たったんだ……)文化祭は無事に終わった。そして、冬が来て春になり、穂香とレンは高校三年生になっていた。あのとき起こったことは、まるで夢のような不思議な体験だったが、すべては現実として今でも穂香の目の前に広がっている。部屋の扉がノックされた。すぐにレンの声が聞こえる。「穂香さん、出かける準備は終わってますか?」「うん、大丈夫。今、行くね」穂香は書き途中の日記帳を閉じた。扉の付近には、黒髪のレンが立っている。「もう皆、来ていますよ」「えっ!? 早く行かないと」穂香があわてて家から出ると、そこには見慣れた顔がそろっていた。大きなカバンを持った生徒会長が「おはよう、白川さん。高橋くん」と眩しい笑みを浮かべると、穴織が「今日は、絶好のお出かけ日和やなぁ」と明るく笑う。車のクラクションが鳴った。運転席から松凪先生が手を振っている。先生は、穂香が三年生になったタイミングで学校をやめた。今は、異世界とこの世界を繋ぐ外交官として活躍しているらしい。「おーい、出発するぞー。早く乗れ」助手席には、紫色の髪をした賢者の姿が見える。車に乗り込んだ穂香達は、清々しい天気の中、お花見に向かった。生徒会長が持っている大きなカバンには、じいやが作ってくれたお花見弁当が入っている。後部座席に座っている穴織が、レンに「じいやさんの料理おいしいねん! 本当にやばいねん!」と熱く語り、レンが迷惑そうな顔をしている。穂香は、後ろの席の生徒会長を振り返った。「大学生活は、どうですか?」「楽しいよ。白川さんもうちの大学にくる?」「うっいえ、そんな超名門大学にいけるほど、勉強ができないので……。レンならいけると思いますけど」そんな感じで車の中は、皆がそれぞれに会話をしていて騒がしい。賢者が穴織に「そういえば、穴織一族が抱えている人形化の特効薬が完成したよ」と報告すると、穴織くんが「マジですか!?」と叫んだ。「あの人形化ってさ、こっちの世界では穴織一族だけの問題だったけど、私の世界では魔法使い達が同じような症状に苦しんでいたから、こっちより研究がだいぶ進んでいたんだよね。でも、特効薬まではできな
「おはよう。来てくれたんだね。白川さんの笑顔が見れて嬉しいよ」生徒会長は、レンを見て「よかった」と胸をなでおろす。「高橋くんも無事にこの時代に残れたんだ」「ご尽力くださり、ありがとうございます」レンがお礼を言うと、生徒会長は「先に助けてもらったのは僕だから。これは、白川さんへの恩返しだよ」と笑う。「君がいなくなったら、白川さんが幸せになれないものね」その言葉に応えるように、レンが穂香の手をそっと握ったので、穂香もその手を握り返した。「君達を見ていると、僕も恋に前向きになろうと思えるよ。あっそうそう、これ……」生徒会長は穂香にプリントを手渡す。「それ、文化祭実行委員が書いて提出するものだから、文化祭が終わったら提出してね」「はい、分かりました」そのとき、生徒会室の扉がノックされた。「し、失礼します!」緊張した面持ちで入ってきた女子生徒に、穂香は見覚えがあった。(あっ、生徒会長のことが大好きで、おまじないをしていた黒髪先輩!)今でもその気持ちは変わっていないようで、生徒会長を見つめる先輩の瞳は潤んでいる。「ぶ、文化祭実行委員の件で来ました」「うん、来てくれてありがとう。このプリントを――」生徒会長が渡そうとしたプリントを、先輩は手がふるえたのか落としてしまった。「あっ、す、すみません!」先輩は、今にも泣きそうな顔をしている。(生徒会長のことが、大好きなんだね)一生賢明な先輩の姿が、レンを助けようと必死だった自分の姿と重なっていく。穂香は落ちているプリントを拾うと、先輩に手渡した。「あの、先輩」「な、何?」知らない後輩に話しかけられた先輩は驚いている。「私、2年の白川っていいます。いきなりですが、先輩、私と友達になってくれませんか?」「え?」先輩は戸惑いながらも「い、いいけど?」と言ってくれた。自分で言ったのに「いいんですか?」と、穂香は驚いてしまう。「うん。友達なら大歓迎」そう言って笑う先輩は、とてもいい人そうだ。(私の周囲の人は、少しだけ幸せになれるから。先輩の恋も、もしかしたら、叶うかもしれない)そんなことを考えていると、生徒会長に「白川さん、よかったね」と言われた。「え?」「だって、クラスに友達がいないって悩んでいたじゃない。でも、今、友達ができたでしょう? これからは、同じクラスとか気にせず
泣き止んだ穂香は、レンと並んで通学路を歩いた。「勝手に風景が変わらないし、もう飛ばされないんだね」「ゲームは終わりましたから」「あれはあれで、便利だったね」「そうでしょう?」「あっ、そういえば、今日は何日の何曜日だっけ?」ずっと目の前に文字が出ていたので、出なくなったら分からなくなってしまった。レンが「今日は、【10月16日(土)の早朝】ですよ」と教えてくれる。「え? 土曜日なのに学校があるの?」「本当に寝ぼけていますね……」レンがメガネを指で押し上げた。「今日は文化祭でしょう?」「あっ、そっか!」「穂香さんは、文化祭実行委員なので、早く行かないといけませんよ」「そうだった」学校につくと、大きなアーチがあり『文化祭』と書かれている。なぜか校門は真っ赤なバラで飾られたままだった。「あれ? 現実世界に戻ったはずなのに、まだバラが……」「そのバラ、私にも見えてますよ」「レンにも? じゃあ、ただの飾りかな?」そんな会話をしていると、怒声が聞こえてきた。「おまえの仕業だったのか⁉」そう叫んだのは、元の髪色に戻った松凪先生だ。先生の側には、紫色の長い髪を持つ賢者がいる。レンが「どうしたんですか?」と尋ねると、先生は「おう、高橋か。白川もおはよう」と言いながら賢者の頭を押さえつけた。「コイツ、自分の世界の破滅を防ぐために、無理やり学校ごと俺を異世界に召喚しようとしていたんだ!」「そ、そんなことしてないよぉ」先生は、校門のバラを指さす。「じゃあ、このバラはなんだ⁉ これ、王城で育てられていたバラだそうだな? おまえ、この学校と王城を少しずつ入れ替えるつもりだったんだろうが!」「だ、だって、何回呼んでも勇者が返事してくれないから! 城のやつらは、私に面倒ごとばかり言ってくるし! それに、なぜかこの学校だけ世界から切り離されてたから、じゃあ入れ替えてもいいかなって……」「いいわけあるか⁉」先生に怒られた賢者は、「もうしないって」と言いながら笑っている。(先生の勇者時代って、大変だったんだろうな)つい穂香はそんなことを思ってしまう。レンが「では、バラの件は解決したんですか?」と質問すると、先生は「ああ」とうなずいた。「まだバラは入れ替えられたままだが、コイツに責任を持って元に戻させる。おまえたちは、安心して文化祭を楽しん
「やり直しより大変なことって……」戸惑う穂香に、レンはスマホの画面を見せた。画面には映像が流れている。――ご覧ください! 突如、日本の上空に謎の巨大生物が現れました!(キシャァアア!!!)――あれは、まさしく、ドラゴンです! ドラゴンは、空想上の動物ではなかったのです!ああっ!? 人が、人がドラゴンの背に乗っています! こちらに、手を、手を振っています!穂香は、寝起きの目をこすった。「何これ? 映画の宣伝?」「いいえ。今朝、本当にあった話です。心当たりないのですか?」そう尋ねられた穂香は、昨日、賢者が『こっちにドラゴンでも召喚して』と言っていたことを思い出す。「あ、ああああ! 心当たり、あるある! 昨日、賢者さんがそんなこと言ってた!」「賢者?」「先生の勇者時代の仲間で……」「よく分かりませんが、先生が関わっていることは分かりました。とにかく学校に行きましょう」「う、うん」穂香がベッドから下りると、風景が変わる。【同日 朝/職員室前】(私の部屋から、学校に飛ばされてる)職員室前でバッタリと先生にあった。「おお、白川と高橋。今日は早いな」先生は、いつものようにダルそうだ。そんな先生に、レンが詰め寄った。「少しお話、いいでしょうか?」「ちょうど俺も高橋に会いたかった。とりあえず、生徒指導室に行くか」レンがうなずくと風景が変わる。【同日 朝/生徒指導室】先生が生徒指導室の扉を閉めると、レンがポケットからスマホを取り出した。「今朝のニュースを見ました。ご説明ください」「まぁ、座れ」穂香とレンが座ったのを見ると、先生は嬉しそうに笑った。「高橋がここにいるってことは、成功したってことだな」事情を知らないレンは、眉をひそめている。「そんな顔するなって。高橋、今、未来と連絡とれるか?」「いいえ。今朝、急に取れなくなりました」「上出来だな。分離もうまくいったようだ」「分離?」先生はこれからの未来が【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【俺達がこれから作っていく、まったく別の未来】に別れたことを説明する。レンが「そんな……無茶苦茶な……」とつぶやいた。その顔は、真っ青だ。「こんなことをして人類滅亡より、もっとひどい未来を招いたら、いったいどう責任を取るつもりですか⁉」「これからは、科学と魔法が合わさってい
賢者は、「こういうときはね」と笑顔を浮かべる。「次元を部分的に塞いで、過去からの影響を未来人たちに流れないようにしたらいいんだよ。そうすると、未来人はそのまま残って周囲の環境だけが変わるから。でも、そこで未来は分離するね」説明がまったく理解できず、穂香は固まった。代わりに、生徒会長が質問してくれる。「分離というと?」「【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【君たちがこれから作っていく、まったく別の未来】の2つに別れちゃうってこと。この2つはとても似ているようで別物だから、まぁ並行世界ってやつだね。でもさ、次元の穴を塞ぐなんて、そんなことできるの、私くらいだと思うけどなぁ? 私だけじゃ、未来人全員は救えないよ?」先生が「こっちの世界には、それができる一族がいるんだよ。な?」と、穴織を見た。「そう、ですね……。一族全員でやれば、できるかもしれません。絶対にできるとは言えませんが、白川さんへの恩返しのために、全力でやります!」「方法や具体的な指示は賢者が出す。穴織の一族には、おまえから話しをつけてくれ」「分かりました」穴織の胸ポケットから『もちろん、わしも協力するぞ』としわがれた声が聞こえてくる。とたんに賢者の瞳が輝いたので、彼にも話す武器の声が聞こえているようだ。先生は、賢者に向き直ると「何をどこまでやれば、未来を分離できる?」と尋ねた。「それだけど、こっちの世界は、科学にだけ特化して滅びそうなんだよね? でも、私がいる世界は、魔法にだけ特化してて、こっちはこっちで、もうそろそろ限界なんだよ」「そうなのか?」深刻な先生に、賢者は「だからさ、この際、滅びそうな2つの世界を混ぜちゃわない?」と満面の笑みを浮かべる。「例えば、こっちにドラゴンでも召喚して、向こうには科学で作った巨大なものを飛ばすとか、どう!?」「世界中が大混乱に陥るだろうな……。まぁ、そこまでしないと、ハッピーエンドにはたどり着けないということか」ため息を着いた先生は、生徒会長に視線を送る。「おまえのほうで、なんとかできるか?」「はい。都合が良いことに、ちょうど今、父が僕への罪悪感に苦しんでいるんです。『なんでも願いを言いなさい』と言うほどに。そこを利用して、混乱を最小限に抑えるために裏から手を回します」「頼もしいな」先生に肩を叩かれた生徒会長は、ニッコリと笑う。
3人で重箱をつついていると、みるみる中身が減っていく。中でも、穴織の食べっぷりは見ていて気持ちがいいくらいだった。「生徒会長、これマジで、めっちゃうまいです!」「喜んでもらえて僕も嬉しいよ」昨日、知り合ったばかりなのに、2人の会話は弾んでいる。「こんなうまい飯が毎日食べれるなんて、生徒会長がうらやましい!」「穴織くんは、転校して来たんだよね? もしかして、一人暮らしをしているの?」チラッと自分の胸ポケットを見た穴織は、「いや、まぁ、そんな感じです」と答えている。(話す武器のおじいさんが一緒だから、一人暮らしとは言い切れないんだね)穴織の事情を知っている穂香は心の中でそう思いながら、静かにため息をついた。(レン、大丈夫かな? ちゃんとご飯、食べてるかな……)穂香としては、レンが頑張ってくれているのに、自分だけのんびりしている状況が心苦しい。(でも、先生に放課後まで待ってくれって言われたから、待つしかないよね)しばらくすると、食事を終えた穴織が「ごちそうさまです!」と手を合わせた。生徒会長は、穂香の顔を覗き込む。「白川さんも、お腹いっぱいになった?」「あっ、はい! すごくおいしかったです。ありがとうございました」「でも、表情が暗いね」「すみません。レンのことを、考えてしまって」穂香が素直に伝えると、生徒会長の眉が下がる。「そうだよね。高橋くんのこと、心配だよね」それを聞いた穴織は、大きなため息をついた。「不謹慎やけど、正直、白川さんにこんだけ思ってもらえるレンレンがうらやましいわ」生徒会長はクスッと笑う。「分かる。僕も同じことを考えていたよ」「ですよね⁉ いくら白川さんに変わった能力があるとはいえ、自分を助けるために、こんだけ一生懸命になってくれる子がいたら嬉しいやろーなー。俺なんて、一生そういう子に会えそうもないわ」「僕もだよ」あきらめたような顔をする2人を見て、穂香は不思議な気分になった。(恋愛ゲームの恋愛相手に選ばれるくらい、2人ともハイスペックなのに?)顔よし、家柄よし、性格よしのすべてがそろっている。「あの、出会えると思いますよ」生徒会長と穴織が一斉に穂香を見た。「生徒会長も、穴織くんも、今まですごく大変な状況で、自分達が恋愛する余裕がなかっただけで……」穂香は、まっすぐ2人を見つめる。「でも
「白川、泣いている場合じゃないぞ。生徒会長からだいたいの話は聞いたが、もう一度、現状を確認しよう」そう言った先生は、穂香にこれまでのことを話すように指示する。そして、すべてを聞き終えると、大きくうなずいた。「なるほどな。研究者が人類の滅亡を防ごうとしていることから、地球の未来は科学だけに特化した世界なんだろうな」生徒会長が、「それは、どういう意味ですか?」と質問すると、先生は、急に授業中のような顔になった。「地球では科学が進んでいるが、異世界では魔法や他のものが進んでいる場合があるんだ。科学者の発明が引き金になり、人類の滅亡が始まるなら、地球は少し他のものを取り入れたほうがいいのかもな」穂香は、先生の言っている意味がよく分からなかった。「分からないって顔をしているな? ようするに、人類滅亡を阻止するのではなく、そもそも人類が滅亡するような事態にならないくらいまで未来を大幅に変えるのはどうだろうかって話だ?」「な、なるほど?」うなずく穂香の横で、生徒会長がさらに質問する。「でも、先生。未来を変えて人類滅亡を阻止したとしても、高橋くんが消えるという問題は解決できていないのではないでしょうか?」穴織も、ウンウンとうなずいている。「そうやんな。未来を大幅に変えると、レンレンどころか、今後生まれてくるすべての人達が変わってしまうんじゃないですか、先生?」「そこが問題だな。俺の知り合いにこういうことにくわしい奴がいてな。ちょっと聞いてみるから、放課後まで待ってくれ」穂香が「はい、よろしくお願いします」と頭を下げると、生徒会長が「その詳しい人って誰ですか?」と質問した。「ああ、勇者パーティーにいた賢者だ。かなりの変人だが世界の理(ことわり)を知っている」物語の中にしか出てこないような役職名を聞いた穂香は『なんだか、すごいことになりそう』と思うと風景が変わった。【同日 昼休み/教室】(あれ? 放課後まで飛ばされると思ったら、まだお昼休みだ)今日からレンは、学校に来ていない。昨日言っていた通り、やり直しを食い止めているのだろう。(レンがいないと、一緒に食べる相手すらいないよ……)いつもお弁当を作ってくれている母には「今日は忙しいから、購買でパンでも買ってね」と言われ、お金を貰っている。(購買、混んでないといいけど)穂香が立ち上がると「穴織